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多彩な三重の姿を発信しているウェブマガジン「OTONAMIE」。懐かしさとワクワク感が入り混じる様子を「オトナミエっぽい」と表現するファンもいるなど、独自の立ち位置を確立している。代表・村山祐介さん(44)に多くの県民が気付かない三重の魅力などを聞いた。全3回の最終回。(聞き手=本紙報道部長・麻生純矢)
(前回からのつづき)
─オトナミエの運営だけでなく、企業などのオウンドメディア(企業が立ち上げたウェブサイトを中心とした媒体)の運営にも積極的に携わっていますよね。
村山 介護事業を手がけている㈱ライフ・テクノサービス=津市中央=の「totutotu(とつとつ)」というその地で暮らす人の記憶を編集するオウンドメディアの運営にも携わっています。介護の世界で働く若い人材を獲得したいという会社の思いはありますが、いきなりそこだけをねらっても難しい。
─確かに。「あそこの会社って楽しそう」というイメージを持ってもらうことは大事ですね。
村山 だから「暮らしたいまちをつくる」という会社の方針としてのコンセプトを掘り下げる中で、「それって介護のことだけなんですか?」という話になりました。記事も、全部プロが書いても面白くないということで、編集室を作って社員にレクチャーして、月一で編集会議はやるものの「基本的にあなたたちが書くことに意味がある」と伝えています。去年、最初の記事はお手本として私が大森屋仲見世支店=津市大門=について書きました。ご主人からの聞き書きで方言も交えながら記事にし、あえてカメラマンもいれず、私がスマホで撮影をしています。「普通」の食堂が続いていく凄さのようなものを伝えています。
─私たちメディアは「普通」よりも日本一とか特別感に価値を見出しがちでしたが、普通のものを掘り下げると凄く面白いし、よくよく考えたら全てがオンリーワンです。そこをクローズアップするのは素晴らしい。
村山 オウンドメディア自体に話を戻すと、企業はPRしたいことや面白いことをメディアに取り上げてもらって発信をしていましたが、もう自分たちのメディアを持つことができるようになりました。それはバズる必要もなく、蓄積させていく非常に大事な作業。ウェブメディアであれば広がりは大きいです。
ライフ・テクノサービスの場合は「暮らしたいまちをつくる」という大きなテーマを分解して、そもそも暮らしたいまちとはどのようなものであるかを考えたり、暮らしたくなるにはどうすればよいかなど、真面目に考えました。その結果、地域で暮らす人の話を聞いて、地域を知ることが最も大切ではないかという結論になりました。いわゆるシビックプライド(地域への誇りと愛着)の醸成ですね。伊勢や伊賀は観光地で歴史があり、市民が誇りを持って暮らしているけれど、津ではどうなんだろうと考えていった時にきっかけを作るべきではないかと思いました。それを私がしても面白くないので、自社でするためにどうすれば良いかを考える過程に、ディレクターとして関わっています。
─自社のPRをしようとする余り自社のことばかり書いてしまうと面白くなくなり、読まれなくなってしまいますよね。特に介護事業は国の制度に則っていることもあり、ぱっと見だけでの差別化は難しく感じます。それをオウンドメディアの発信で分かり易く差別化していく試みは合理性もありますね。
村山 これは地方都市ならではのやり方で、東京でやろうと思ったら、もっと別のやり方になると思います。介護事業を運営する会社の広報に打ち込んできた職員が街の歴史あるバーなどに行って取材をする。これが面白い。ライフ・テクノサービスのような比較的大きな企業がこういったことをやるということは、とても大事です。地方創生など、行政の取組みには限界があるからです。大手企業もただお金を出すだけではなく、本当に動くとはどういうことなんだろうなどと考えたり、面白いと感じることに取り組んでもらい、企業が自由にまちづくりを楽しみ、わちゃわちゃやり始めると街は楽しくなると思っています。行政はそのバックアップに入る感じで、自由に遊ぶ感覚になれば良いのにと感じています。
もちろん、オウンドメディアを運営する企業毎にしっかりとしたミッションはあるのですが、そのプロセスが硬いと面白くないので〝遊び〟のルールづくりが私の仕事と思っています。
─ワクワクするお話をありがとうございました。本紙とオトナミエでコラボ企画などもしたいですね。 (了)
2024年7月11日 AM 5:00