三重大学(臧黎清特任講師と島田康人講師)、藤田医科大学、マウントサイナイ大学の研究チームは、小型魚類ゼブラフィッシュを使った糖尿病性腎症モデルの構築に成功した。不治の病である糖尿病性腎症の治療法開発に役立つとして注目されている。
 現在、糖尿病は世界的に増加しており、多大な健康問題を引き起こしている。20歳以上の成人約5億3700万人が1型あるいは2型糖尿病に罹患しており、2030年には 6億4300万人、2045年には7億8300万人に増加すると予測されている。
 糖尿病による3大合併症として、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、神経障害があり、死亡原因となっている。このうち糖尿病性腎症は、糖尿病患者における最も一般的で重篤な死因の一つで、最終的には腎不全となり、人工透析の需要が世界的に増加している。
 正常な腎臓はフィルターの役割を果たし、水分や小さな分子は通過させながら、タンパク質などの大きな分子を保持する。しかし、糖尿病患者では長期間の高血糖症によりこのフィルタリング機能が損傷し、尿中にアルブミンなどのタンパク質が漏れ出す。
 この尿中の過剰なタンパク質は病気の重症度を示すアルブミン尿または蛋白尿と定義され、治療の指針として臨床的に使用されている。重篤な蛋白尿はネフローゼ症候群を引き起こし、腎不全のみならず低タンパク血症による低栄養・浮腫の増悪、血栓症(肺梗塞、心筋梗塞、脳梗塞など)や感染症などを合併するリスクを増加させる。
 糖尿病性腎症は、早期発見・適切な医療的管理により進行を遅らせることは可能だが、治癒させることはできない。
 小型魚類を疾患モデルとして用いることにより、これまでの哺乳類動物(マウスやラット)を用いた試験系より効率の良い治療法の開発ができる。同大学では2017年に発表した世界初の2型糖尿病モデルゼブラフィッシュをベースに、今回、新たに糖尿病性腎症モデルを構築させることに成功。このモデル(魚)は糖尿病が進行するにつれ、腎臓糸球体に障害が起こり蛋白尿を発症する。その蛋白尿に蛍光タンパク質を発現させることで、飼育環境内(水槽内)に出てくる蛋白尿の量を測定可能にした。
 糖尿病性腎症患者とモデルゼブラフィッシュの腎臓の遺伝子発現を比較すると、腎臓の病理組織学的検査では、糸球体基底膜の肥厚、足突起の消失、および糸球体硬化症などの患者に類似した特徴を示したほか、ゼブラフィッシュの腎臓は患者に見られる遺伝子発現パターンと類似していることが判明。さらに既存の糖尿病治療薬「メトホルミン」を投与すると、ゼブラフィッシュの高血糖およびタンパク尿を改善させることができた。
 同研究成果から糖尿病性腎症の発症・進展メカニズムを解明し、その治療法開発のための強力なツールとなることが期待されている。
 すでに次の段階として同モデルを用いて腎症症状の改善を促進する「治療遺伝子」の探索を行っており、不治の病である糖尿病性腎症の治療法開発を目指す。
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