条件満たした不要な土地 相続時に国へと引き渡す

空き地や空き家の問題は全国の自治体で悪臭の発生や雑草の繁茂、倒壊の危険性などによって近隣住民の生活を脅かすことが増えている。一方で、それらは所有者の個人資産であり、行政でも介入が容易ではなかったため、これまでに様々な法改正がなされてきた。多くの空き地や空き家は適切な相続登記がなされていないことが多く、数世代に渡って相続が発生することで相続人が無数となり、所有者の特定が難しくなる。そこで対策として今年4月より相続登記が義務化されている。
 こうした背景に加え、少子高齢化や都会への人口集中によって、土地の所有に負担を感じる人も増えていることから、国の対策の一つとして始まったのが「相続土地国庫帰属制度」。その名の通り相続した不要な宅地、農地、森林などを一定の条件を満たしていれば、国庫に納めることができる制度。申請をするためには、相続や遺言で土地と取得した相続人である必要があり、建物を取り壊して更地にしたり、審査後には土地の10年分の管理費に当たる一筆20万円(基準値)の負担金を納めなければならないなど、それなりに高いハードルが設けられている。国庫に帰属した土地の管理は、国にとって負担となるため、制度開始時には、申請が受理されづらいのではないかという声も少なくなかった。しかし、蓋を開けてみれば、良い意味で期待は裏切られた。
 昨年の制度開始以来、これまで国に出された申請の総数は2348件。うち審査が終わり、国に帰属した件数は564件。土地の境界が明らかではない、民法上の通行権利が妨げられているなどの理由で、却下された件数は10件、不承認は17件(却下と不承認が重複している件数も含む)。自治体や国による土地の有効活用が決まったり、農地としての活用の見込みが立ったことなどによる申請の取り下げは293件だった。三重県でも105件の申請があり、申請が終わり国庫に帰属したのは32件、却下や不承認は0件、諸事情により取り下げが11件となっている。
 前述した申請や審査段階で必要な条件を紹介すると…申請の段階で、却下となる土地は①建物のある土地(更地にしないといけない)②担保や使用収益権が設定されている土地③通路や墓地などの他人の使用が予想される土地④土壌汚染されてる土地⑤境界が不明な土地や所有権などに争いがある土地。申請を出せるものの、審査段階で不承認となる土地は①崖があり、管理に労力を要する土地②放置車両や廃屋などがある③産業廃棄物、古い水道管など除去しなければ管理や処分が難しい土地④他の土地に囲まれて公道に通じていない土地など⑤通常の管理や処分に過分の費用や労力を要する土地(災害の危険性、間伐など適切な管理がされていない森林、土地改良区に水利施設の建設費用などを払っている場合等)。
 制度を利用するための最初のステップである法務局での相談では、土地についての情報を元に、これら条件に抵触をしていないかを出来る限り詳細に確認している。これが高確率で国庫帰属に至っている要因とみられている。三重県内の制度を管轄する津地方法務局でも「土地の情報がわかる資料を揃えて頂き、できるだけ対面での相談にきてほしい」と話す。
 この制度は、相続した土地をどのように管理していくかを考える上での選択肢の一つに過ぎないが資産価値が低く、売買や利活用が難しい土地の管理は地方に住む多くの人が抱える深刻な問題。将来相続する可能性のある土地を、宅地は不動産業者を介した売却や空き家バンク、農地は農地中間管理機構、森林は森林経営管理制度といった具合に、どのように管理や処分をするか予め家族で話し合うことも大切といえる。その中で、この制度が自分にとっての解決策となり得る場合、一度相談すると良いだろう。
 制度についての相談は予約制。電話かネットより受付。問い合わせ・予約は☎059・228・4527。