一見知事(左)と本紙・麻生社長

一見勝之三重県知事新春インタビュー。任期のしめくくりを迎える今年。三重県の未来をつくっていく上では欠かすことのできない人口減少対策、昨年の能登半島地震から学ぶ県民の命を守る災害対策、2037年のリニア全線開通を三重県内全体の発展につなげていくための展望など県政の重要課題について聞いた。
                (聞き手・本紙社長・麻生純矢)

大きな課題の人口減少対策 総合的な施策を展開 

 ─新年あけましておめでとうございます。知事は以前、これまで県が行ってきた人口減少対策が十分でなかったかもしれない可能性にふれたことがありましたが、未曽有の人口減少に対する危機感や、実行力のある施策に取り組まれていくという意気込みの表れであると感じました。三重県の現状を含めた人口減少対策への課題に向けた施策や成果について教えてください。また、子どもを中心に、結婚・妊娠・出産、子育てといった人生の場面ごとに切れ目のない支援を打ち出した施策「みえ子どもまるごと支援パッケージ」に2カ年で重点的に取り組まれてきましたが、具体的にどのような取り組みを行ってきたのかを教えてください。
 知事 今までの取り組みで、県も市町も、実は一生懸命やってきたのは事実です。だけど、実効がなかなか上がっていないというのも、そのデータが示してるところです。本当は国がちゃんとやらなければいけないと私は思っています。日本の人口をこれから維持していく、あるいはその減り方を緩やかにする時期は、今をおいてもうないんじゃないかという危機感を持っています。三重県は、私が知事になる前の選挙の時から訴えてきましたが、人口減少というのは、痛みを今すぐには伴わないが、将来的に大きな話になってくる、今手を打たないともう手遅れになるということで、しっかりやりましょう、やりたいと思いますっていうことを訴えて、選挙で当選したこともあり、すぐに人口減少対策課をつくって議論してきました。令和5年8月には、人口減少対策方針を定めて、それに従って対応していくということを決めたところです。そこには5つの柱があって、子育てしやすい環境、ジェンダーギャップの解消などが定められています。その中の移住の促進については前から伸び続けていることも考慮をしても成果出てるかなと感じます。一方で、ジェンダーギャップ指数で三重県は全国で46位なので、これを解消しなきゃいけない。そのために、去年の9月、10月、11月、三重県で働いてる女性28人のご意見を聞くような場を作り、今年の予算にも例えば、女性が働きやすい職場改善に関して企業が何か改修する場合には県が補助するというようなやり方を盛り込んできたところで、少しでも数字を上げたいと思っています。
 そして、子供の施策はとっても大事。人口減少対策には、自然減の対策と社会減の対策があります。社会減は移住で対応していくことになるし、それから転出が多くなるのをどうやって防いでいくかってことにもなります。
 自然減対応は子供が増えていった方がいいのですが、これは強制はできません。子供を持ちたいと思われる方が子供を持てるようにやっていくためには 子育てできる、しやすい環境を作らなきゃいけない。市町がやってることを県で応援したり、あるいは県としての医療費について支援をしたりということがあるので、「みえ子どもまるごと支援パッケージ」を令和5年、令和6年とやってきたということですね。
 ─私も長年、地方で仕事させてもらっていて感じるのは、移住者を入れるのは大事ですが、やはり若者などの人口流出を未然に阻止するのが、もっと大事ということ。そのために、お伺いしたような包括的な施策もそうですし、地域づくり、 まちづくりみたいな部分で、地域の魅力を高めていきながら、地方を盛り上げていかなきゃいけないなと思います。
 知事 その通りです。学生は大学が三重県に少ないから県外に出ていくのですが、どうすれば帰ってくるか、あるいは県内の大学に行くかを色々聞いています。彼ら彼女らが言うのは大きく2つあって、1つは、三重県の弱点なんですが、駅前のにぎわい。それがあると帰り易い。それからもう1つは交通が便利ではないと言われています。ただ南北にJRと近鉄が走っているので、そこから東西の動きはバスか、バスを走らせるほどの人数がいなければ公共ライドシェアという手段があるので、それをどう活用するのかもポイントとなります。かつては自家用有償運送っていう風に言われたものですが、それを自治体が担ったり、ボランティア、NPОが担ったりします。そういうものをどうやってこれから増やすかも大きなポイントですね
─やはり、人口減少対策は多岐にわたるものなのですね。
 知事 人口減少対策には、雇用も、交通も、まちづくりも、医療も大事、子供政策も大事と、 全般にわたる政策なんです。それを県は一生懸命やります、市町もやってます。しかし、国は実は人口減少を考える役所がないんですよ。あったとしても内閣府のごく一部です。今回石破内閣では防災庁を作ろうとしてますが、1つの役所があった方が良いので、人口減少対策庁などを作ってもらった方が良いと思います。今、こども家庭庁ってあります。これは子供のことをやっているので、全般的な政策をどこかでまとめてもらった方が良いと思いますね。

能登半島地震の経験   県民の命を守る防災対策に

─2024年1月1日に発生した能登半島地震の際、被災地への支援など、迅速な対応をされましたが、その経験は三重県内の防災体制強化にどのように活かされていますか。また、三重県も南海トラフ地震を始め、津波、台風、集中豪雨など多様な災害リスクを抱える中で、各自治体でも防災対策に取り組んでいますが、県として進められている取り組みについて教えてください。
 知事 1月1日に地震が起きて、2日には県職員の派遣をしています。それで、トータル述べ約1万8000人に及ぶ消防、警察、医療関係者、県の職員、市の職員、町の職員を支援に派遣しました。
 そこで得られた気付きは、例えば、孤立集落が出た時に道路はなかなか通じない中、携帯の通信機局が倒れてしまって使えない、あるいは電話線も切れたけれど、衛星電話はないといった情報面でも孤立が発生したので、それに対してどうするかなどという気づきを、80項目ピックアップしました。それを1つ1つこれから対応していって、来るべき南海トラフ地震に備えています。
 ─80項目の中でも特に大事だと感じるものは。
 知事 三重県でも孤立集落が200ほど出ると言われています。対応は比較的簡単なのですが、道路の崩落などで物理的な孤立が起こってしまうので、衛星電話とかスターリンクを置いてもらう。
 あとは電源。ガソリンの発電機を置いておけば、少なくとも情報孤立にはなりません。置いてなかった時に備えた志摩市での訓練では、発動機をヘリで運んだり、ドローンで衛星電話を運んだりしました。輪島の朝市の火災は消火できなかった。消防車が行ったけれど、水が出なかった。三重県でそういった悲惨な状況が起きないように空中消火、ヘリで水を運んでいって、上から投下する訓練もしました。
 あとは避難所ですね。避難所で感染、コロナなんかの感染が起きないようにどうするか、それから、できるだけ災害関連死を少なくするようにどうするかというようなこと、その避難所の中で段ボールベッドを置いて、それぞれ個別に暮らしていただくというようなことですけど、そういったことも考えていかないといけないと思います。
 ─今回の震災で受援体制というのもすごく言われるようになりました。県としても市町としてもそこも強化しつつ、教訓を活かしていけるようにすることも必要ではないかと思います。
 知事 受援体制は初動の次ですね。まず初動で大事なのは人命救助で、これは72時間以内にやらなければなりません。なので、 自衛隊、海上保安庁に直ちに進出してもらって、警察、消防という形でやるんですが、 その後、おそらく1000人規模の支援が来るんです。それをどうやって受け入れるか、これも大事なことです。
 人命救助という意味で津波避難タワーは非常に有効です。大きな地震が来ると津波が来る。それから家屋が倒壊し、火災が発生する。家屋倒壊は補助金を充実させて耐震強化をしてもらうことにしています。津波については、三重県では18の津波避難タワーを徐々に作ってまして、令和7年度に全てに着工できるようになってます。
 それから、情報提供も大事で 防災アプリを作りました。これをダウンロードしてもらうと、今いる付近の津波避難ビルがわかります。三重県に観光で来ていただく方も津波避難ビルがわかるだけでなく、三重県民も旅先の津波避難ビルがわかるので避難できます。任期の3年間である程度進めてきましたが、アプリも含めてこれからも進めていきたいと思います。
 ─色々なものを使って、災害から県民の命を守るために施策を展開して頂けることは心強いですね。今後もよろしくお願いいたします

県全体の地域振興へつなげる  リニア全線開通へ向けて

 ─リニア中央新幹線は2037年の全線開通をめざしていますが、亀山市を駅候補として掲げる三重県でもその経済効果や交通利便性の向上が期待されています。現在、様々な話し合いが進められていますが、リニア開業を地域振興に結びつけるためにはどのような取り組みが必要とお考えですか。
 知事 これまでもリニアの基本戦略を作ったりしていますが、1番大事なのは、リニアの駅。亀山の3箇所のうちのどこかにできるだろうと想定してます。そこからはリニアの効果を全県に及ぼすことが必要。そのために必要なのは、駅前をどう整備するか。それからリニアからの2次交通は主にバスでしょうね。それをどういう風に整備するかは非常に重要ですね。
 ─新幹線でもそうですが、駅を作るだけではなかなか地域活性化にならない。それを受け入れる県としての施策も、非常に大事になってくると感じます。
 知事 周辺をどう開発していくかっていうのは大事ですね。例えば、そこに東京から1時間、大阪から20分というメリットを活かして、 例えば研究所かもしれないし、あるいは企業かもしれないし、そういったものをどうやって展開してもらうかを考えないといけません。
 ─全線開通まで10数年ありますが、今はそこに向けて少しずつ色々なものを具体化していくフェーズですよね。1時間で東京と結ばれるというのは人口減少対策においても大きいはず。
 知事 東京に直行で行けるようになれば、三重から東京に通う人も出るかもしれない。1時間は長いと思う人がいるかもしれませんが、 大阪であれば20分。静岡から東京まで新幹線通勤してる人もいるので出てくると思います。今は二地域居住の対象に三重はなりづらいですが、リニアができればなる可能性がありますね。

手ごたえや力を入れたいこと   これまでの任期を振り返る

─2025年は任期のしめくくりの年となりますが、これまでの振り返りで知事として、特に印象に残っていることや手ごたえを感じられていること、特に力を入れたいと感じていることについて伺えたらと思います。
 知事 3年間、結構いろんなことをやってきましたが、やはり1番大事なのは命を守るということ。防災の関係ですね。それから、三重県人のその命を繋いでいってくれるのは子供たちだということで考えるとですね。子供の政策も充実をせないかんっていうんで、先ほどの「子どもまるごと支援パッケージ」みたいなのもやってきました。これも引き続きやっていきます。
 それから、 三重県の弱点があって、1つは インバウンドの戻りが悪いこと。外国人がほとんどいないですよね。東京行ったら外国人ばかり。京都も、大阪も、奈良もそう。名古屋も最近外国人が多い。ところが三重はいない。岐阜は高山に外国人溢れているという状況なので、力を入れていかなあかんと思っています。それから、ジェンダーギャップ指数。46位っていうことなんで、ここもなるべくその順番を上げられるように頑張っていかなければなりません。観光、農林水産業、自動車や半導体も含めた産業というものを引き続きやっていく必要があるという風には思ってますね。三重県は広いですから、三重県職員5000人や、議会、住民の意見をお聞きして、良い県にしていきたいですね。
 ─三重県は他府県に負けない魅力がたくさんある県だと思います。もちろん、様々な課題もありますが、今後も様々な政策で人一つクリアしていきながら、更に磨きをかけていけば、より素晴らしくなると確信します。巳のり多き一年となることを願っております。ありがとうございました。