発達さんの日常

発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人と言われる。前回に続き、発達障害者の就労について当事者の母・山根一枝さん、飯田あゆみさんが語る(敬称略)。

 

 

周りの社員にもメリットを

山根 息子の政人は、障害者雇用において重度知的障害者に該当します。事業主は障害者の法定雇用率を下回った場合、不足した人数一人あたり月額5万円を納付する義務がありますが、重度障害者は1人で2人とカウントされるため雇用すると10万円分節約できて、事業主にはメリットがあります。でも社員にはありません。
社員は、障害者が同じチームで働いているとノルマ達成が遅れるなど困ることもあると思う。だから、重度障害者を雇用した場合、節約できた分の10万円を事業主がチームの皆に「彼に配慮することへの手当」として支給すれば、合理的だし、社内の受け入れ態勢が整いやすくなって雇用が進むと思います。
職場は働いてお金をもらうところ。周りの社員だって大変な思いをして仕事をしているんだから、自分の家族に対するような多大な優しさを求めても無理ですよ。
飯田 そういう風にすると、今のように当たらず障らずではなくて、「私達のチームで一緒に仕事しようよ」と思ってもらえるかもしれませんね。

 

適性見極めや職場環境も

飯田 私の息子は就労継続支援A型事業所に就職を決める前、その事業所で実習をしました。そこでは周りの方にこの子に仕事を覚えてもらいたいという意識があり、仕事のマナーとその根拠も詳しく教えてくれたので、すごく納得できたようです。失敗しても改善策を一から教えてもらえて、それが志望理由の一つだと思います。
山根 一方、大手企業の障害者雇用では、下請けに出向となり、出向先自体は小さい会社で社員が少なく障害者雇用の義務はないため、ウェルカムじゃないというケースが多いんです。息子もそういう状況で、居づらいながらも生活費のためにも我慢して働いていたんですが、3年目に職場の人とのコミュニケーションをとりたくなったみたい。でも話し方が不器用で、例えば同僚の名前を出して「誰々さんはインフルエンザにかかってしまいました」と冗談のつもりで言うんです。そこでそんなことないよとツッコんでくれる人がいれば本人も満足なんだけど、皆がひいてしまう。
飯田 それが政人さんの良いところなのに。
山根 そうやって本人を理解し、周りとの橋渡しをしてくれる人が職場に一人いれば良いんですけどね。障害者の雇用や職場定着には、本人を徹底的に研究して適性を見極めることや、昼休みなど勤務時間以外の職場環境も重要だと思います。
飯田 好きなことじゃないと続かないというのは誰でも同じだけど、障害者雇用では、本人の長所を仕事に生かそうという姿勢があまり見られません。発達障害のある人を雇用し、適性を考えずにこの会社に入ったんだからこれとあれをやってと指示しても無理で、適性に合う一種類の仕事をこなせたら良いと思うんです。例えば、集中して黙々と作業するのが得意で、清掃の仕事に向いている子もいます。
だから、多くの企業が求める人材像を明確にしたうえで、特別支援学校と直接交流して生徒を対象に採用活動をしてくれるようになれば。それが本当の障害者雇用率アップに繋がると思います。
(第2回終わり)

発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人と言われる。前回に続き、発達障害者の就労について当事者の母・山根一枝さん、飯田あゆみさんが語る(敬称略)。

 

山根一枝さん 三重県自閉症協会ペアレントメンター津市在住。息子は単身上京し会社勤務。

山根一枝さん
三重県自閉症協会ペアレントメンター津市在住。息子は単身上京し会社勤務。

飯田あゆみ さん 生活介護サービスあゆか(松阪市)代表。息子は高校3年で、就労継続支援A型。

飯田あゆみ さん
生活介護サービスあゆか(松阪市)代表。息子は高校3年で、就労継続支援A型。

飯田 私の息子は、就労支援継続A型事業所の飲食系に就職が決まりました。就活中は一般就労という選択肢もあって本人も私も悩み、私は当初、給料が比較的多い一般就労が良いのではと考えていたんですが、最終的に本人が選択しました。
親は「子供がやりたいことをやる」という目的をついつい忘れ、自分の思いや世間体を気にしてしまいがちですが、「これは良い、これは嫌」という自己主張ができるのは、生きていくうえでとても大切なこと。だから、親が子供の長所も短所も理解し、将来の選択肢を沢山与えてあげないと。
山根 さらに、健常の人でもそうですが、障害のある子も学生のうちに色々なアルバイトを経験することができれば、自分に合う仕事がわかるし、地域社会に馴染みやすくなると思うんです。
飯田 特に飲食店の仕事は身近だから憧れる子も多いし、気配り・会話・段取りが学べる。この3つができるようになれば、とても生きやすくなる。でも障害者雇用は接客業が少ないですよね。
山根 そうですね。私は昔、地域のスーパーに息子を働かせてほしいとお願いしましたが、来店客に何を質問されるかわからないので、お客さんのいない社屋内の仕事には雇用できるけど、店内の仕事は無理と言われました。だけど、スーパーは日常的に来店する人が多いので、そんなに難しい質問はされないと思うのね。しかも、発達障害の特性で商品を日付順に並べるのが大好きな子が沢山いるんです。
飯田 普段、障害者と関わりのない人は、どう接したら良いのかわからないみたいです。関わるのが苦手と感じている方も、実際関わることで「そんなに難しいことでもないやん」と気づいてもらえる場が欲しいです。
(次号に続く)

発達障害者の就労

発達障害のリアルを当事者・専門家らが語る対談連載。発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違うために幼いうちから現れる様々な症状。出生率は数十人に一人と言われる。今回は発達障害者の就労について当事者の母・山根一枝さん、飯田あゆみさんが語る(敬称略)。

 

 

山根一枝さん 三重県自閉症協会ペアレントメンター津市在住。息子は単身上京し会社勤務。

山根一枝さん
三重県自閉症協会ペアレントメンター津市在住。息子は単身上京し会社勤務。

飯田あゆみ さん 生活介護サービスあゆか(松阪市)代表。息子は高校3年で、就労継続支援A型。

飯田あゆみ さん
生活介護サービスあゆか(松阪市)代表。息子は高校3年で、就労継続支援A型。

山根 息子の政人(35)は三重大附属特別支援学校を卒業し、津中央郵便局などでの勤務を経て約4年前に上京。ヘルパーさんなどに見守りや支援をして頂きながら一人で暮らし、障害者枠で働いています。
彼は仕事をしたい気持ちが元々強かったので、高等部のとき新聞配達を経験。障害の有無に関わらず仕事さえしてもらえばお金は払いますと言われ、きちんと給料を頂き本人にとって良い成功体験でした。家庭ではおこづかいは家事をしたら渡すシステムで、お金はきちっと仕事をしなければもらえないことを叩き込み、今に生きています。
飯田 私は仕事で障害者支援をさせて頂いていますが、逆に、親が「障害がある子だからできなくても仕方ないんです」と守ってしまうことにより、「いただきます」など最低限のマナーが身に付かない場合もあります。そして子供の可能性を伸ばし切れていない様子なのに、親は子供を大手企業に入らせたいなど高望みしていたりする。 結果、就職後に本人が困るんです。社会はマナーまでは支援してくれませんから。
(次号に続く)

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