社会

特例措置の全額公費補助は  9月末までに接種開始を

 津市では、全国で毎年約2900人が命を落としている子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を防ぐ「HPVワクチン」の啓発に力を入れている。定期接種の機会を逃した女性たちが対象の特例措置「キャッチアップ接種」が来年3月末で終了するが対象者の約半数が未接種。全額公費補助は今年9月末までに1回目の接種を受ける必要があるため、早めの対応が求められる。

子宮頸がんは子宮の出口に近い部分に出来るがん。HPVは異性間の性交渉によって感染し、多数の女性が一生に一度は感染するとも言われている。多くの場合は自然治癒するが、治らない場合はがん化する危険性がある。厚労省によると子宮頸がんには全国で年間1万1000人が罹患し、約2900人が命を落としている。命が助かっても子宮を失う人が年間1000人もいる。
 これに対し、HPVワクチンを接種することで子宮頸がんの原因の80~90%を防ぐとされ、小学6年生から高校1年生までの女性が無料で定期接種を受けられる。一方、厚労省は接種後に報告された身体の痛みなど多様な症状とワクチン接種との因果関係が十分に説明ができない状態が続いたことを理由に、平成25年(2013)から令和3年(2021)までワクチン接種を積極的に勧めていなかった。その後、令和3年10月に、専門家による会議で最新データに基づく安全性について懸念がないことが確認され、再び接種を積極的に勧め始めたという経緯がある。
 積極的に接種を勧めていなかった期間に、定期接種の年齢を過ぎて接種機会を逃してしまった平成9年(1997)4月2日~平成19年(2008)4月1日生まれの女性に対する特例措置として全額公費で接種が受けられる「キャッチアップ接種」を来年3月末まで実施している。
 今年3月末現在で津市内のワクチンの定期接種とキャッチアップ接種の対象者数は計約1万8700人。それぞれに協力医療機関でのワクチン接種に必要な予診票を送付している。ワクチンは15歳以上で接種する場合は、半年かけて3回接種をする必要があるため、キャッチアップ接種の対象者が全額公費補助を受けようとすると、9月末までに1回目の接種を受ける必要がある。全額自己負担になると最大10万円ほど必要。キャッチアップ接種の対象者のうち、約半数はまだ接種を受けていないこともあり、早めの対応が安心だろう。
 HPVワクチンについて一時は様々な情報が錯綜していたこともあり、不安を抱える人も一定数いるが前述の国の安全性に対する判断に加え、津市でもHPVワクチン接種での健康被害(発熱や筋肉の痛み等一般的なワクチンの副反応は除く)は報告されていない。加えて、子宮頚がんによって多くの女性が命を落としたり、子宮を失っているのはまぎれもない事実である。まずは予防に有効なワクチンについて知ることが重要。
 定期接種対象の学生も夏休み期間を利用すれば医療機関でのワクチン接種を受けやすい可能性も高い。市は中学生から対象者に予診票を送っているが、前倒しで接種を受けたい小学6年生は各保健センターで手続きをすれば、予診票を発行してもらえる。予診票を紛失した場合も、自分の母子健康手帳を持って各保健センターで手続きすれば再発行を受けられる。ワクチンについての不安や疑問がある人は相談も可能。問い合わせは津市健康づくり課☎059・229・3310へ。 

 津市垂水の石水博物館で夏休み企画展「源氏物語の美とひろがり」が開かれている。会期は9月8日㈰まで。
 王朝の古より個展として尊ばれてきた源氏物語の情景は、いつの世も「美」と仰がれ、平安時代末期に絵巻になったのを皮切りに、たびたび絵画として表現されてきた。
 千年以上前に紫式部が著わした源氏物語は、貴族により何度も書き写されてきた。同館には、鎌倉時代中期の書写とされる「源氏物語」「早蕨」一帖が所蔵されている。同作品は、もともと津藩主の藤堂家に伝来した逸品で、江戸時代後期に津の豪商だった川喜田家に下賜されたるなど源氏物語と所縁がある。
 王朝文化へのあこがれから書写が重ねられた和歌集をはじめ、源氏物語の著名な場面があしらわれた工芸や、江戸時代後期に活躍したやまと絵師・土佐光貞の基準作とされる「源氏物語銀地屏風」、『偐紫田舎源氏』をテーマにした「源氏絵」と呼ばれるジャンルの浮世絵など、時代ごとに移り行く永遠の古典の世界を展示している。
 入館料は一般500円、学生300円、中学生以下は無料。開館時間は10時~17時(入館は16時30分まで)。
 問い合わせは☎059・227・5677。月曜休館(祝日の場合は翌日)。

本当は明るく楽しい限界集落

OTONAMIE代表・村山さん

 多彩な三重の姿を発信しているウェブマガジン「OTONAMIE」。懐かしさとワクワク感が入り混じる様子を「オトナミエっぽい」と表現するファンもいるなど、独自の立ち位置を確立している。代表・村山祐介さん(44)に多くの県民が気付かない三重の魅力などを聞いた。全3回の第2回。(聞き手=本紙報道部長・麻生純矢)

(前回からの続き)
 村山 僕自身は新興住宅地で生まれ育ち、そこは会社勤めの人が多い平均的な地域。学校へ行っても似た境遇の子たちが多く、オトナミエを始めてから、初めて尾鷲にいきました。その時、街中のオシャレなカフェの紹介をしてたら、とある記者から「全然面白くない」と言われました。その人は尾鷲の漁村でゲストハウスをしている人で改めて行くことに。
 そして、初めての漁村で衝撃を受けました。狭い地域に人口数百人がギュッと生活しており、昼過ぎには漁師さんが仕事を終えて、酒の自販機の前でたむろして飲むみたいな光景を見たり、ウイスキーを持って步くおじいちゃんを見たり…。道路にガードレールもなくて、すぐ海なので夕方になるとおばちゃんたちが海に夕飯を釣りに行ったりもしています。
 平均的な地域で生まれ育った身としては、こんな暮らし方があるのだなと凄く衝撃的で。平均化されてないのがローカルの面白さと気付きました。これは中山間地域でも田園地域でも同じ。平均化されてない面白さはメディアにも活かせると思い、平均PVを上げるよりも「なんか変な記事がいっぱいある!」の方が面白いんじゃないかと思いました。要するにPVよりもらしさですね。
 しばらくそういったことをやっていると「オトナミエらしい食堂を見つけた」というような投稿をSNSで見つけました。それは凄く古びた食堂で、オトナミエらしさとはこういうことなんだなって。究極に面白い情報はなんだろうと考えたら、インターネット上に情報が無い良いものを見つける方が面白い。それがオトナミエらしさになっていると思います。
 それに気付いたきっかけが、少し前までオトナミエの副代表をしてもらった福田ミキさんという東京から桑名に移住した方の記事。今は閉めたんですが桑名の一見さんが入りにくいラーメン屋さんのようなお店の紹介が凄く面白かったんです。私の記事で1番バズったのが、津市中央の中華料理店の孫悟空さんのお話。今はレトロブームですが、当時は新鮮で、そういったお店からは絶滅危惧種的な魅力も感じます。
 ─昔は現地の人しか出会えなかったお店でも、今は見つけることで発信と共有ができますしね。
 村山 そうですね、だから登録してる記者にも「その地で暮しているからこそ知っている魅力を伝えてください」というようなことを伝えています。あとメディアでは凄い人ばかりを取り上げがちですが若い子からは現実味がない(自分との距離が離れすぎている)と言われることも多い。だから普通であることが面白いと方々で聞くし、普通であることが凄く良いことなんじゃないかと思うようになりました。
 ─普通というのはその地域で長年培われてきたものの象徴なので、その面白さに気付けると世間が一気に楽しくなりますね。特に印象に残っていることはありますか?
 村山 一般的なメディアで限界集落は、高齢化が進んで凄く悲しいといったイメージで報じられがちです。でも、実際行ったらお年寄りはとても元気で明るい。若者が行っても、空き家が沢山あるのでチャンスがある。だから現場を見てほしい。例えば、街中の高齢者は、いわゆる一般的なイメージのおじいちゃん、おばあちゃんが多いです。でも、限界集落のお年寄りは高いところから飛ぶくらい元気でした。一度、尾鷲で限界集落について、お年寄りに聴いたことがあります。すると「確かに町は無くなる。伝統文化が無くなるのも嫌やけど、自分ももう死ぬしな。あはは」ととても明るい。残すのは、大切なことですが、悲観ばかりすることはないのかなと感じました。
 ─確かに人口数や高齢化率だけを追うと悲壮感と危機感しか湧いてきませんが、限界集落にいる人たちの本音を知るとまた新たな景色が見えてきますね。(次回へ続く)

[ 2 / 105 ページ ]12345...102030...Last »