社会

「高野尾花街道 朝津味」=津市高野尾町=は農業をテーマとした地域振興をめざしており、その方策について三重大学と㈱赤塚植物園が共同研究を進めてきたが、今月新たな2つの研究会を設立する。伊勢別街道を軸とした文化・観光を軸にした地域連携と、新たな地域の特産品として栽培を進めるヨモギをテーマに地域振興への取り組みを進め、官学協働による更なる発展をめざしていく。

 

新たな特産品化をめざすヨモギの試作品

新たな特産品化をめざすヨモギの試作品

今年7月にオープンした朝津味は、農業を軸に高野尾地区や周辺の活性化を目的とする施設。地元の農家たちが野菜を出品する県下最大級の農産物直売所や、その新鮮な野菜を使った料理が楽しめるフードコートがあるため、大勢の人で賑わっている。また今月終わりには隣接する赤塚植物園の「ヒーサーの森」もオープンとなり、今まで以上の人出が期待されている。地元の農業者を中心に立ち上げた同施設の運営会社である㈱フューチャー・ファーム・コミュニティ三重(FFC三重)の設立前より、三重大学と㈱赤塚植物園は農業による地域振興をめざすための方策を共同研究してきたが、更に新たな観点での地域振興をめざす2つの研究会を今月設立する。
その研究会の一つは「地域連携ゾーン 文化・観光研究会(仮称)」。同施設にはかつてお伊勢参りに向う人々で賑わった伊勢別街道に面した地域に立地しており、同地域が街道と共に発展してきた歴史風土に着目し、新たな地域連携を図っていく。具体的には名古屋と大阪という二大都市からの集客にも繋げられる名阪国道の関インターから街道に沿って、石山観音・楠原・椋本・朝津味・高田本山専修寺と寺内町を、更に三重県総合博物館を中心としたエリアや、椋本からの分岐を経由した温泉群(湯元榊原舘・猪の倉温泉)を結んだ地域連携ゾーンを形成し、交流人口の増加をめざした観光交流を立ち上げる。研究会の構成は三重大学・赤塚植物園・FFC三重・県・県総合博物館・温泉群・旅行業者など。更に研究会にもオブザーバーで参加する観光ボランティアガイド団体の案内による伊勢別街道周辺めぐりの実施を検討。地域の民話等を人形劇や紙芝居で伝えたり、来年度には花と温泉がテーマシンポジウムも企画中。
そして、もう一つ設立するのは「ヨモギ栽培研究会(仮称)」。高野尾地域の新たな名物づくりと不耕作地約28ヘクタールの解消の両立をめざし、ヨモギの栽培を進めており今年4月に初めて収穫。新芽をペーストにして同施設で草餅として販売しており、好評を得ている。その一方、周囲の和菓子店や㈱井村屋などからも安全で品質の高い国産のヨモギを求める声が上がっているため、新たな商品化と共に6次産業化を踏まえて研究を進める。ヨモギは栽培に大がかりな機械や設備の必要もなく、地域の高齢者も労働力として活躍できる点でも期待されている。今後は、野菜と比べると成分分析や食品としての機能性などの学術的な研究を進めていくと共に企業とタイアップした商品化なども視野に入れて研究していく。研究の構成団体は三重大学・赤塚植物園・FFC三重・三重県・井村屋・地域農業者。立ち上げに当たって、ヨモギの栽培研究で先端をいく千葉大で調査を実施するなどの準備を進めている。さらにペースト化に適さない葉や茎が少し硬くなる時期のヨモギを粉末にし、商品試作してみたところ味や香りの良さから好評という。
今後の研究の結果次第で様々な商品が生まれていく可能性もあり、栽培の中心となって尽力する地元農業者で研究会の会長に就任予定の田中康章さん(67)は「ヨモギが農業者の収益となれば、後継者不足など地域の問題も全て解決する」と話す。
朝津味も今月27日にヒーサーの森のオープンを迎えると、いよいよ本来の集客能力を発揮することなる。その中で、産学連携による農業での地域振興という先進的なテーマをベースにした文化・観光の盛り上がりや新たな特産品を生み出そうとする両研究会への期待は大きい。

カシノナガキクイムシ(カシナガ)が媒介する菌類の通称ナラ菌によってナラ(ミズナラ・コナラ)・カシ・シイ類などの広葉樹が大量に枯死する伝染病『ナラ枯れ』。津市では3年前、松阪市では昨年より被害が確認されており、今年も山間部を中心に発生。これらの木は土砂災害の防止や水源涵養機能など、多面的な役割を果たしているものの、木材としての価値が低いこともあり、対策が進んでいないのが実情だ。

 

フラスが溜まった被害木

フラスが溜まった被害木

ナラ枯れの原因であるナラ菌を媒介するカシノナガキクイムシ

ナラ枯れの原因であるナラ菌を媒介するカシノナガキクイムシ

ナラ枯れが発生した森(津市白山町で撮影)

ナラ枯れが発生した森(津市白山町で撮影)

夏の日差しを浴びて青々と生い茂る山の木々。目を凝らすと紅葉の時季にはまだ早いのに、茶色く葉が変色した一帯を見かけることがあるはず。それがナラ枯れだ。津市では白山町など山間地域を中心に至るところで見かける。
ナラ枯れ発生のメカニズムを簡単に説明すると…①6~7月に、健全なナラ類などの木にカシナガのオスが穴をあけて侵入②7~8月、そのオスが出す集合フェロモンに誘因された多数の成虫が同様に穴をあけて木に侵入(マスアタック)③8月~、メスが持つ菌の胞子を貯蔵する器官から穴に病気の原因となるナラ菌が蔓延することで木が通水機能を失い急激に枯れる④9月~、卵からかえった幼虫は穴の中で育てた酵母類を餌に成長を続けながら越冬する⑤6月~、穴の中で羽化した成虫がナラ菌を持って飛び出し周囲の木に侵入する。このサイクルが繰り返されることによって、ナラ類の集団枯死が起こる。被害木は虫が侵入した1・3㎜~1・8㎜程の穴と共に、大量の木くずと糞が交じり合ったフラスが見られるのが特徴。
国内では90年前後より被害が目立つようになり徐々に被害範囲が広がっていった。三重県内では99年に熊野地域で初めて被害が確認され、現在では森林が存在しない木曽岬町と川越町を除く全ての市町で被害が確認されている。津市では13年、松阪市では15年に被害が発生している。
被害によって森林の中でナラ類などの広葉樹が果たしている土砂災害などの防止や水源涵養機能の低下などが危惧されている。また枯死した木が放置されていると場所によっては、枝が落ちたり、木そのものが倒れることで人的な被害や道路などのインフラに悪影響を与える可能性も。加えて公園や寺社仏閣、景勝地の木が被害にあった場合などは、著しく景観が損なわれたケースもある。
予防・防除自体は薬剤の樹幹注入や木の幹をビニールで覆ったり、被害木を倒して燻蒸するなど、シンプルな手段が多いが裏を返せば、人手や費用が掛かるものばかり。スギやヒノキと比べると、ナラ類の材木は市場価値が低く、対策に見合う利益が得られないこともあり、地権者が被害木を放置するケースが多い。
ナラ枯れ発生の大きな要因としてはナラ類の大木化が挙げられる。古来より日本では、薪や木炭の材料としてナラ類を定期的に伐採し、それが木々の更新にも繋がっていた。しかし、60年代の燃料革命によって木が伐採されることが無くなり放置されたため、カシナガが繁殖しやすい大木が増加。一気にナラ枯れの被害が広がったという構図だ。
理想を言えば最も有効な対策は、このサイクルの復活だが、木質バイオマス発電の燃料チップ化などを考慮しても今のところは余り現実的といえない。それよりは、問題の深刻化の前に観光資源や文化的価値が高い守るべき森や木を行政が見定めたり、枯死した木が倒れて周囲の道路・線路などのインフラや周辺住民の生活に影響を与えそうな場合は、いちはやく伐倒するよう地権者に理解と協力を求めるなどの対策が重要。
ナラ枯れ被害は全国的には減少傾向で、その要因として、一定期間でカシナガの繁殖に適した大木が全て枯れてしまったことが挙げられている。一方、津市や松阪市での被害は発生したばかりで、被害の拡大も予想されるだけに、注視すべき状況が続いている。

津市は自治会が設置・維持管理する防犯灯のLED型への交換・新設の補助事業を行っているが、開始以来高いニーズを保っている。蛍光灯と比べると長寿命で電気代も安く、自治会の大きな負担となっている防犯灯の維持費の削減にも大きく貢献。今年度分で防犯灯のLED化率が6割を超える見込みだが、事業の財源である環境対策基金が底をつくため、来年度以降も同規模で継続するには新たな財源確保が課題となる。

 

市内に設置されたLED型防犯灯

市内に設置されたLED型防犯灯

市内には自治会が設置している防犯灯が約2万8800基あり、平成24年度よりLED防犯灯の設置補助事業(補助率3分の2・上限2万円)を行っている。当初は、市側が見込んだ予算を遥かに上回る要望が殺到したため、昨年度より市が自治会に事前聞き取りを行った上で、希望数から割り出した金額を当初予算に計上するという形に切り替えている。昨年度は補正予算を含めて約6500基分の約1億円を事業費として計上。これによってLED化率は約42%となった。
今年度も自治会への聞き取りを行い、5567基8738万円を当初予算に計上したが、それ以降に数百基分の要望が届いているため9月議会に補正予算を提出して対応するために協議を進めている。
蛍光灯を使った従来型と比べるとLED型の魅力は維持管理費の安さ。機種にもよるが、電気代は約半分で点灯時間も約7倍の約6万時間であることから、蛍光灯の交換といったメンテナンス代を減らせる。少子高齢化が進む中、会員の減少が続く自治会にとって大きな負担となっている防犯灯の維持管理費の削減は非常に意義が大きい。
この補助事業も、犯罪や交通事故の防止に大きく貢献する重要な社会インフラでありながら、民間サイドが管理しているという防犯灯の特殊性を理解した上で行われているもの。昨年度より温室効果ガスの排出削減という点に環境対策基金を事業の財源に活用しているが、今年度の補助でほぼ枯渇してしまう。そのため、来年度も今年度と同規模の補助を維持しようと思うと、新たな財源の確保が大きな課題となる。
今年度分を合計すると市内防犯灯のLED化率は60%を超える見込み。東日本大震災以降、省エネ意識も高まっているだけでなく、前述の通り防犯灯の維持管理費は自治会の会計に占めるウェイトは大きいため、要望に合わせた施策の継続は不可欠。我々の日々の暮らしを明るく照らす防犯灯の果たす役割は大きく、ニーズに合わせた市の対応を期待したい。

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