社会

 少子高齢化に伴い、全国で倒壊の危険性や防犯上の問題となる空き家・空き地が増えており、各地の自治体が所有者に適正管理を求める条例を制定する動きが加速している。同様の問題を抱える津市でも(仮称)『津市空き家等の適正管理に関する条例案』をまとめ、できる限り早く市議会提出をめざしている。今後、複雑な問題が絡み合うこの問題に対し、どれだけ実効力を持たせられるかがカギとなりそうだ。

 相続はしたものの、費用的な問題などを理由に所有者が適正な管理を行わないがために状態が悪化している空き家(空き地)が増加している。中には朽ち果てる寸前のようなものや、出入口の扉が壊され、誰でも出入りできるような状態になっているものも少なくないため、地震による倒壊や火災が発生する危険を抱えるだけでなく、不特定多数が出入りすることによる防犯上の問題、景観の悪化、雑草の繁茂や悪臭・害虫の発生水面など、近隣住民の生命財産をおびやかす存在として、しばしばトラブルの原因となっている。
 その一方、個人の資産であるそれらに対して行政が強制介入することは難しく動くための根拠となるルールづくりが求められる。そこで、持ち主に適正な管理を求め、応じない場合には氏名の公表などの罰則規定を盛り込んだ条例を定める自治体が増加している。
 津市でも、同様の問題が発生しており、倒壊を含む建物自体の問題を管理する建築指導課や、におい・雑草・害虫などの問題を管理する環境政策課には、市民から空き家(空き地)に関する様々な苦情が寄せられている。特に倒壊の危険性がある家屋の隣に住む住民にとっては命に関わる問題で市議会でも何人もの議員が、管理条例の制定に向けた要望を挙げていた。
 そのような動きもあり、津市では(仮称)「津市空き家等の適正管理に関する条例案」をできる限り早い段階での市議会提出をめざし、意見集約を行うべく現在市民からのパブリックコメントを募集している。
 現段階の内容としては適正な管理を行わない所有者に対して、市が改善を求めるよう助言および指導・勧告・措置命令と段階を踏んだ対応を行い、それでも従わない場合は氏名の公表や、代執行までを想定した形となっている。
 氏名の公表などの罰則は様々な自治体などの成果で一定の効果が期待できる反面、、空き家を放置している背景に、撤去費用が捻出できなかったり、取り壊しによって固定資産税の住宅用地特例が外れ、課税額が跳ね上がるという理由で、二の足を踏んでいる所有者もいることを考慮すると、罰則規定だけで問題が解決しないのは事実だろう。
 先進的な自治体では、撤去費の補助を行うなど、柔軟な施策をとっているところもあり、それらを参考により現実に即した施策が必要となるだろう。
 開会中の市議会定例会でも、関係する様々な質問が予想されるが、どれだけ実効力を持った施策として成立させられるかが最も重要なポイントとなろう。

 県内の知的障害者入所施設の待機者数は今年4月1日現在で480件と増加傾向にあるが、平成18年の障害者自立支援法成立後、国は新設を認めず、県もそれに従う形が続いている。しかし9月に三重県知的障害者保護者連合会が三重県議会へ新設等を求める請願書を提出し、10月の県議会本議会で採択されるなど状況が好転。現在は国の動きを見守る状態だが保護者や関係者の間では大きな前進に向け期待が集まっている。 

 国は障害者自立支援法施行後、24時間体制で利用者の支援を行う入所施設は、「障害者を地域から孤立させ、社会参加や自立に対して不適切な存在」と位置づけ、新設や定員の増員を認めない方針をとっている。その代わりに、最小限の補助を受けながら利用者が授産施設などで日中活動を行い、それなりに自立した生活を地域の中で行うグループホームやケアホーム(以下、GH・CH)の新設を推進している。
 しかし、現実は県内24の入所施設で今年4月1日現在、待機者数が480件にまで膨らんでいる。ところが、県は国に従う形で入所施設の新設や定員増加を一切認めていない。なぜ入所施設を希望する声が大きいかというと、重度の障害者はGHやCHで暮らすのが難しいからだ。
 重度の知的障害者は、肉体的にも精神的にもデリケートである者が多く、一人ひとりに合わせた24時間体勢での手厚いサポートが必要不可欠となる。少ない人員配置で、夜間などは更に手薄になるGH・CHで重度障害者が暮らすことができないのは想像に難くないだろう。
  更に18歳未満の障害児を対象とした入所施設では、対象年齢を超えても次の入所先が見つからないため、やむなく入所を続けている加齢児と呼ばれる障害者たちが県内でも10月1日現在で25名いるが、平成30年3月末を期限に退去を迫られる問題まで発生している。
 〝地域移行〟といえば聞こえは良いが、行き場の無い重度の障害者たちは結局保護者や家族の下に戻るしかない。だが、その頼みの綱も高齢化が顕著で、40代後半の娘が重度の障害を抱えている70歳代のある保護者は「妻がもし居なくなり私一人になったら風呂に入れることすらできない」と苦しい現状を打ち明ける。
 この現状をなんとか打開すべく「三重県知的障害者保護者連合会」=伊藤憲一会長=は、入所施設の拡張(新設)と更なる質の向上を求める請願書への署名運動を6月中旬より展開。9月6日には「障害者入所施設の請願書」を県議会に提出。10月8日に健康福祉病院常任委員会で「障がい者入所施設の拡張(新設)とさらなる質の向上を求めることについて」として採択され、同16日の県議会本会議でも採択を受けた。   10月30日には県議会の山本勝議長が、その内容も盛り込んだ医療・介護分野の意見書を、田村憲久厚労相に提出している。
 同連合会の伊藤会長は、「県には今まで意見してもはね返されてきたが、言うべきことは言うべき。重度の障害者を親の力だけで在宅介護するのは難しい」と現実的な対応をするよう訴える。今回の採択に尽力した同委員会所属の中森博文県議も「障害者が社会参加をするための地域拠点となる施設は必要」と、その活動を後押しする。
 現在は国の動向を見守る段階だが、同連合会では署名活動を継続。10月25日現在で8800枚述べ3万2838人の署名が集まっている。これを障害者や保護者・家族が安心できる仕組みや政策の実現の要望と共に県へ提出する予定。
 今後、どのような形で結実するかは分からないが、大きな一歩を踏み出したことは間違いない。

 政府と与党は、5年後の2018年を目処にコメの生産調整(減反)を廃止する案を示し、本格的な調整に入っている。それに伴い、減反に協力した農家に支払われる補助金も、来年から現状の3分の1にまで減額される案も提示されている。約50年も続いたコメ政策の大転換に様々な意見が出ているが、県下で最も大きい水田の耕地面積を持つ津市と、3番目の松阪市にも大きな影響が出ることは間違いない。 

 いわゆる『減反』と呼ばれるコメの生産調整は、食生活の多様化など、コメ余りによる米価の暴落を防ぎ農家の経営を安定させるために1970年より本格的に導入された。
 政府が毎年割り出している都道府県別のコメの需要実績と翌年の需要見込みに基づき、都道府県別の生産数量目標を算定する。そして、各都道府県が市町村別で生産数量目標を算定し、各農家に作付面積に応じた目標が割り振られる。
 生産目標を超える分の田にコメ以外の作物を植える転作などで、減反に協力した農家には、10アール(1反)辺り1万5000円の補助金が支払われるという仕組み。その全国の合計額は昨年度実績で約98万件、1552億円にも及ぶ。
 これは中小零細農家を支える貴重な財源となっている一方、生産コストが割高となり、競争性のある市場の醸成や農業経営の発展を阻害するという声があり、有識者や政治家の間でも制度の是非が問われてきたが、TPPへの合意を視野に入れた政府の方針として突如、減反廃止への動きが加速。全国の農業関係者に大きな衝撃が走っている。
 現状では来年から補助金を3分の1の5000円まで減らす案などが示されており、この穴埋めのためにコメの生産量を上げる農家が増えることが予想され、米価の下落は避けられないと見られるからだ。
 三重県に目を向けてみると、平成24年度の数字で県内の全耕地面積6万1000の内、田が4万5900を占めている。補助金は同年実績で2万1024件、24・5億円が支払われている。津市の田の面積は6750と県下最大。隣接する松阪市も6270と伊賀市(6330)に次いで3番目。生産数量目標は津市が2万602tと、伊賀市(2万1721t)に次ぐ2位。松阪市が2万428tで3位と続く。市町別での補助金支払い実績は公開されていないが、基本的には生産数量目標に比例するため、減反が廃止されれば津市や松阪市は県内で最も影響が大きい地域の一つとなる。
 補助金がなくなることでコメの増産が図られ、体力のない中小零細が手放した農地を勢いのある農家や農業生産法人などが集約することで農業の強化が図られるというのが国の見込みと見られている。両市内でも〝攻め〟の農業を提唱する層からは歓迎の声が聞かれるのも事実だ。
 しかし、両市共に市域の大きな割合を中山間地が占めており、獣害による被害や収穫量が小さく機械も入りづらい場所にあるなど、営農効率の悪い田も多い。津市内の中山間地で小規模な農業を営む男性も「減反廃止で大規模化が進むのは平地にある耕作条件が良い田だけ」と漏らす。このような地域では農業だけで生計を立てるのは難しく、他に収入のある兼業農家というケースが多い。そのため、減反が無くなっても赤字を跳ね返すだけの体力は持っている者もいるが、それも一時的に過ぎない。
 中山間地域の農地は農村らしい景観の形成・水源涵養・貯水機能による防災効果など、多面的な役割も果たす。過剰投資は理解を得られないが、何らかの形で守る仕組みが必要となる。
 全国に目を広げても、中山間地にある耕地が全耕地面積の約4割を占めており支援策が必要なのは政府も認識している。耕地の不利度に応じた補助金交付制度の維持や、飼料米への転作などの方針を示しているが、現状では不明瞭だ。農業だけに留まらない重要な施策だけに地方の現実に即した形が必要だろう。

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