特別寄稿

 ウィンタースポーツで有名な観光地では、夏場の集客力低下が避けられない。また、海辺の観光地でも、シーズンオフには食事や温泉を工夫したり、低価格ツアーに甘んじる必要がある。
 これは国内市場が季節商品だとみなしているからだ。しかし、コロナ禍から3年が経った今、この従来型の国内旅行のパターンが変わりつつある。少子高齢化と物価高騰による市場の縮小である。
 一方、インバウンド市場は円安の恩恵もあって急上昇している。新幹線ゴールデンルートのオーバーツーリズムも、JRのジャパンレールパスによる地方分散が奏効してきている。
 ジャパンレールパスの海外向け広報によると、2009年に利用者数延べ680万人から始まったこのJRのパスは、福島第一原発が爆発した2011年こそ620万人にまで減ったが、それ以降は年々増加の一途を辿り、コロナウイルス・パンデミック前の2019年には3180万人に達している。
 しかし、三重の場合、その恩恵は亀山を経由する以外に選択肢はない。快速みえの路線は、三セクの「伊勢鉄道」が導線を断っているからである。だからJRの海外に向けた広報を見ても、申しわけ程度に触れているのは伊勢神宮と夫婦岩のピンポイントだけで殆ど情報がない。
 中部エリアを紹介するビデオアーカイブにあるのも、静岡県、愛知県、岐阜県、黒部・立山のみで、三重県はない。インバウンド到達率を見ると三重県は1%未満、47都道府県中46位である。
 何度も目のあたりにしてきたが、(お隣の県の)JR奈良駅から市内へと流入するインバウンドはシーズンオフの国内市場の補完として十分機能している。
 一方、三重県へのインバウンド訪問率は1%にも満たない。正直なところ、インバウンド集客のための設備投資、費用対効果の面で疑問を禁じ得ない。
 ゆえに鳥羽市のホテルマリテームは「地域一体となった観光地・観光産業の再生・高付加価値化プロジェクト」の補助金採択を得たが、辞退することにした。ハードウェアの改修だけでは、国の求めるインバウンドによる収支改善には至らないからだ。
 ところで、この一宿泊施設あたり補助額上限1億円のプロジェクトだが、マリテームの場合は国の補助金2分の1、自己資金2分の1で申請し採択を得たが、金融機関からの融資を前提とした補助金3分の2で申請した宿泊施設の場合、そのハードルは更に高かったようである。融資する側の与信を踏まえた意思決定が必須だからだ。
 その前提は、市場回復による投資回収の確実性にあるのだが、松阪から伊勢志摩の現状をみる限り、全国旅行支援が縮小された4月から7月半ば迄の回復がすこぶる良くない。とても確実性が担保できる条件にあるとは言えなかったのである。
 この点においても、インバウンドによるシーズンオフの補完は必須だと言える。例えば、平日の伊勢志摩の一人あたりの平均宿泊単価は1万2000円程度であるが、もしこれがインバウンド・バブルの様相を呈してきた箱根の一泊10万円程度だったら、金融機関の与信は自ずと高くなるだろうし、建設業や農林水産業などへの波及も見込める事となり、国や県が求める持続可能な収支の改善や雇用の安定・定着も、シーズンのオンオフ平均化をもって成功するに違いないからである。

 (OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)

 1993年に創設された技能実習制度は、発展途上国の外国人が日本で働きながら技術を学び、帰国後に母国の発展に生かしてもらうことが建前だ。実習期間は最長5年で、今年3月末の時点では農漁業、縫製業、建設業、宿泊業など87職種が対象である。この技能実習制度のあり方を検討する政府の有識者会議が4月10日、日本の法務省内で開催された。
 会議では、「国際貢献に大きな役割を果たしている」「中小企業にとって受け入れは必須だ」などの意見に対し、「目的と実態のかい離は明らかで、人権侵害につながる構造的な要因だ」「外国人労働力を安く使うという考えでは人材獲得の国際競争に勝てない」「労働力として正面から認め、長く日本で生活者として暮らせる仕組みを考えるべきだ」「実態に合わせて廃止した上で、国内産業の人材確保の制度として再出発することが必要だ」などの意見が交わされ、現行制度の廃止を検討するよう中間報告書の原案が提示された。
 有識者会議は、今秋をめどに最終報告書をまとめ、日本政府は早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する方針である。宿泊業界もそうだが、労働力不足は深刻だ。少子高齢化で人手不足が深刻化し、外国人の実習生が労働力の貴重な担い手となっている実態に合わせる必要がある。
 折しも4月12日、日本の総務省は2022年10月1日時点の日本の総人口推計(外国人含む)を発表した。総人口は前年比55万6000人減の1億2494万7000人となり、12年連続で減少。出生児数が死亡者数を下回る「自然減」は16年連続となり、前年比で73万1000人減った。国立社会保障・人口問題研究所では、2100年には約6400万人にまで減少すると予測している。現在、日本政府は「異次元の人口増加政策」の財源をめぐって混迷しているようだが、社会保障や増税で可処分所得を減らす愚策を執れば本末転倒の結果になるだろう。では、どうするか?
 2014年2月、安倍元首相がソチ冬季五輪開会式出席のためソチを訪れた時、プーチン大統領は昼食会で日本の人口減少に触れ、ロシアにおける「母親資本制度」の取り組みを説明した。母親にインセンティブを与えるこの人口増加政策については、2018年5月31日付本紙上あるいはWEB版の№125でも紹介したが、私はこの制度が人口の増加や若返りが社会保障の健全化や内需拡大のみならず、国防面においても有効であることに戦慄した。というのも、ロシアでこの制度がスタートした2007年生まれの子供たちが、あと2年でこの国の兵役に適う18歳に達するからである。我が国の戦時中においても「生めよ殖やせよ」スローガンがあったが、労働生産人口が国力を担保することは間違いない(もっとも、ロシアの国防相は昨年、ロシア軍の徴兵年齢を3年引き上げる考えを示した。が、それは現行法では学徒は徴兵が猶予されるからであって、21歳からのほうが兵役に就けやすく、将来的な軍隊の人員拡大につながるからである)。
 つまり、人口政策は国防と同格であり、だったら財源については言うまでもなく「国債」なのである。しかもそれは、コロナワクチンや防衛装備などといった買ったら終わりの「エンドユース」ではなく、生涯賃金相当額で国内消費を起爆する投資的役割を果たす。この投資は社会全体で回収されうるものだ。
 (OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)

 小雨舞う昨年12月13日、私たちは奈良県コンベンションセンターを訪れた。コロナ禍の中、2年前の4月に誕生したここは、校倉造り風の壁に唐草文様の絨毯と、随所に正倉院や天平文化にちなんだデザインの美しい会議場だ。
 今回の奈良訪問は国連世界観光機関(UNWTO)の「第7回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」に参加するためで、同行者は本居宣長記念館の名誉館長、松阪の旅館組合長、三重県の旅館組合長代理、三重ふるさと新聞の社長、そして、近畿日本ツーリストの職員である。
 ガストロノミーツーリズムとは、いわゆるフードツーリズムよりも少しばかり次元が高く、美食観光とも訳される概念で、基本は地産地消だが、B級グルメやジャンクフードとは縁遠い(私ならば「郷土料理探訪」と意訳するが)。
 このガストロノミーをテーマとした世界フォーラムは、2015年、2017年、2019年にスペイン、2016年にペルー、2018年にタイ、2021年にベルギーで開催されている。
 基調講演はプロジェクト粟の代表による「ガストロノミーツーリズムの未来へのビジョン」。代表によると、奈良には7つの風があるという。土地そのものが持っている性質『風土』。そこで営まれる農業や漁業による『風味』。その風土の中で風味を追求していくことで生まれる『風景』。自然と仲良く健康に生きていくための知恵『風習』。自然のものを活用しながら作られた生活工芸『風物』。生活文化である『風儀』。その6つの風のなかで培われる価値感とか心持ちである『風情』だ。
 続くセッションⅠは、「女性と若者。才能にスポットライトを当てる」と題し、発酵デザイナーさんと「été」のオーナーシェフによるパネルディスカッション。世界のほとんどの地域で、女性と若者がツーリズム労働力の大部分を占めているが、ツーリズムはエンパワーメント(能力開花)への道筋を提供することが証明されており、ジェンダーや年齢に応じた政策の開発により、違いを生み出す機会を最大化する必要がある。
 このセッションの目指すところは、女性と若者が生産的な活動に従事し、経済的機会をつかみ、社会に影響を与え、それによってツーリズムを変革するために必要なスキルと知識を女性と若者に提供することにより、永続的な遺産の構築を支援する次世代のツーリズムリーダーを称え、力を与えることにある。
彼らの住む地域社会だけでなく、あらゆる場所で、パンデミックの影響から包括的かつ回復力のある回復を確実にするために、これらの労働力が観光業で不釣り合いな影響を受けていることを投げ掛ける。
 ランチタイムを挟んで、セッションⅡではFOODLOSS BANKのCEOと、日本ガストロノミー学会設立代表、そして海外登壇者による「私たちの地球、私たちの未来…持続可能な食品」。
 食は、持続可能な調達、持続可能なメニュー、食品廃棄物の防止と削減を通じ、循環性と観光事業の変革への入り口を表す。しかし、多くの観光事業は世界市場から食料を調達しており、その結果、漏出や二酸化炭素排出量が増加している。また、ホテルでは購入した食品の最大60%を無駄にすることもあり、観光業では大量の食品廃棄物が発生している。この問題は、業界にとって年間ベースで1000億米ドルを超える損失を世界的に表しているが、食品プロセスの最適化と循環型アプローチの統合による節約の最大の機会の一つでもある。
 世界で生産される食料の3分の1が廃棄されているが、食品廃棄物に対する行動は、すべての人にとって最優先事項でなければなならない。ツーリズムにおける食品廃棄物削減に関するグローバル・ロードマップは、観光関係者が食品が決して無駄にならないように持続可能な管理を受け入れるための一貫した枠組みを提供する。
 そして、セッションⅢ は、「SDGs達成に向けた規模の拡大…UNWTOガストロノミーツーリズム・ピッチチャレンジ」の当選者発表だ。 UNWTOによる簡単なプレゼンテーションに続いて、起業エコシステムとその主要な利害関係者がどのように協力してSDGsを達成し、観光および食品産業の収益、規模、および持続可能性を確保できるかについての洞察を提供。第3回UNWTOガストロノミーツーリズム・スタートアップ・コンペティションで選ばれたファイナリストが、バスク・クリナリーセンター(BCC)と協力して聴衆にアイデアを売り込み、彼らのガストロノミーとツーリズムに基づくソリューションを政策、実際、地域社会、さらには持続可能な行動ができるかについてが紹介された。
 日本で開催となった今回の世界フォーラム参加者は、国内からが約300名と海外約150名で450名。ノーマスクも僅かにいるが、概ねは(外国人も含め)マスク着用だ。まさに相互理解の賜物である。来賓は国交副大臣に、観光庁長官、奈良県知事、そしてマドリッドのUNWTO事務局長。サプライズなことに、冒頭、観光庁長官によって、奈良県田原本町の取り組みと共に三重県鳥羽市のガストロノミーの取り組みも紹介された。それなのに三重県から来た出展ブースは名張市だけ。三重県はUNWTOの自治体賛助会員であり、それこそ山海の幸の宝庫であるにもかかわらずである(後日確認したら、三重知事ほか一名も招待されていたそうである)。
 別室に設けられた展示場では、大阪国税局や名張市等々、各地の酒を紹介するコーナーがみられる。今回のセッションにはなかったが、酒もガストロノミーの重要な部分である。例えば、三重県にしても数多の酒があり、それぞれが地政学的特性を有しているのだ。
 (OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)

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