特別寄稿

井村さん_表_220908_OL8月23日のNHKによると、日本政府は新型コロナの水際対策をめぐり、観光目的の外国人の入国制限を緩和する。これまで添乗員付きのツアーに限定していたが、添乗員がいない場合でも認めるとの方針だ。感染拡大防止として、日本政府が一時停止していたインバウンド受け入れ再開から2カ月(8月現在)。出入国在留管理庁によれば、6月が252人、7月が7903人と、観光入国が極めて低い水準だからである。
だが、個人旅行は引き続き認めない。ツアーを手配する旅行会社などがスケジュールを管理し、感染者が出た場合の対応などについても、ガイドラインを守るよう求める。このようなヒモつきでは焼石に水である。
8月31日現在、47都道府県で確認された累積感染者数は1896万7755人に対し、死者数33万9955人(昨年の2月17日から今年7月22日までのワクチン接種後死亡者1795人は含まず)。全数検査によって分母が急上昇したが、累積死亡率は0・21%へと着実に減っている。にもかかわらず、現在、訪日可能なのは、リスクが低いと判断された98の国や地域(度たびロックダウンを繰り返している中国も何故か含まれている)からのみである。これらの観光客は、ワクチン接種を受けていなくても入国時の検査や待機措置は免除され、それ以外の国と地域については、引き続き入国目的はビジネスや留学などに限定され、観光は受け入れの対象ではない。
各国の水際対策はどうか。
アメリカでは、入国規制を緩和し、6月12日からは外国から航空機で入国する際は、新型コロナの検査の陰性証明は不要としている。疾病対策センターCDCは、ワクチンの普及などによって「アメリカでの死亡や重症化のリスクが下がったため」と説明している。ただ、入国する外国人に、ワクチン接種の完了を原則として義務づける措置は継続している。イギリスでは、ワクチン接種が完了していない人に求めていた出発前や入国後の検査などを6月から廃止。フランスでは、入国の際にワクチンの接種証明書などの提示を求めていたが、8月からは不要。イタリアでは、入国の際にワクチンの接種証明書などの提示を求めていたが、6月からは不要。ドイツでは、暫定的な措置として入国の際にワクチン接種証明書などの提示を求めていたが、6月からは不要。スペインやオランダでは、EU連合の加盟国に居住する人などに限って水際での措置を撤廃、日本などから入国する場合はワクチン接種の完了などが求められている。
このような規制緩和につき、日本政府は慎重姿勢を未だ崩してはいない。しかし、国際収支の上で、日本はもう余裕がない。上の表は近年の日本の貿易収支と旅行収支で、私が毎月記録している財務省の速報値の和であり、日本のメイン・メディアが避けて通る数値の年間合計である。ご覧の通り、貿易収支の衰退と旅行収支のポテンシャルが明確に見てとれる。
日本のメディアがこのようなファクトの報道を避けるのは何故か。まず株式市場への影響、そして、単一言語による排他性、広告主の多い工業界の面子、中国共産党のゼロコロナ政策への同調等がある。が、既に多くの国々では、モノ貿易ではなくサービス貿易であるインターナショナル・ツーリズムに焦点を当てているのも事実だ。
そして、中国はコロナ禍の中にあっても、モノ貿易によってもたらされたマネーで軍備を増強し、他国の不動産にまで触手を伸ばしてきたのもまた事実である。
中国にとって、コロナ禍以前のインターナショナル・ツーリズムは、外貨が流出するだけだった。したがって、ゼロコロナ政策は、国外にある中国資本の土産店に中国人観光客が群がるように、外貨が還流する仕組みの構築を以て終了となる可能性が高い。コロナ禍とインターナショナルツーリズムは表裏一体の関係なのだ。
思い返せば、2010年に世界保健機関WTOのチャン(馮富珍)事務局長が、新型インフルエンザのパンデミック終息宣言を発表した時もそうだった。これにより、出足の悪かった同万博の入場者数は飛躍的に伸びて7308万4400人を記録、上海財経大学の試算によると、開催期間中半年間の直接的な経済効果は、1263億元(当時の日本円換算で約1兆5150億円)となった。(OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)

今、伝統的な日本型旅館では、コロナ禍による団体客の激減に加え、高齢化や時代に即した働き方等によって、中居さん専従者が大きく減っている。結果として、旅一番の楽しみである夕食も、部屋食提供ではなく、ダイニングやレストランでの提供が増えてきている。これを日本文化の衰退とみるか、或いは世界標準化とみるかは意見の分かれるところだが、もともとコロナ禍以前に策定された観光庁の『観光ビジョン実現プログラム』には、民泊も含めた宿泊業と飲食店とのシェアリングを意図した「泊食分離」が盛り込まれており、時流に抗えないのも事実のようである。
とはいえ、いわゆるガストロノミー・ツーリズムは、その土地ならではの食材に、それを育んだ自然、伝統に則った調理法を、土地の文化として嗜む旅である。抹茶を椅子・テーブルでいただくことは殆どないが、供出作法が文化的一面であることは茶道が端的に表しているといえる。
例えば、特産松阪牛におけるスキヤキだが、特に火加減いかんによる霜降り肉の味付けを、手慣れた中居さんなしで堪能できる食通はそう多くはないはすである。
特産松阪牛とは、松阪牛の中でも兵庫県産の子牛を導入し、松阪牛生産区域で900日以上肥育した牛』と定義されたもので、松阪牛全体の数パーセントしか存在しない『松阪牛の中の松阪牛』『松阪牛のスペシャルグレード』である。
古来、松阪地方では、但馬地方(兵庫県)生まれで紀州育ちの若い雌牛を役牛として導入していたが、明治以降はそうした役牛を長期肥育することで、肉質の優れた松阪牛として生産してきた。
この肥育技術を継承し、松阪牛の中でも特に但馬地方をはじめとする兵庫県から生後約8カ月の選び抜いた子牛を導入し、900日以上の長期に渡り農家の手で1頭づつ手塩にかけて肥育されたものが「特産松阪牛」である。
一般的に牛を長く肥育することは、通常よりコストとリスクを負うため、熟練の農家が秘伝の匠の技を駆使し、『生きたまま熟成』させるという意味で、大切に育て上げた『究極のエイジングビーフ』だといえる。日本の農林水産省は2017年3月3日、「長期肥育による肉質の探求にいち早く特化し、その方法を確立した」として、国の特定農産物として地理的表示に登録した。
地域には、伝統的な生産方法や気候・風土・土壌などの生産地等の特性が、品質等の特性に結びついている産品が数多く存在している。これらの産品の地理的表示を知的財産として登録し、保護する制度が「地理的表示保護制度」である。
つまり、それは地域文化のブランディングなのであるが、ならば、その魅力を100パーセント引き出すための供出作法も、ガストロノミー・ツーリズムには欠かせないものであって、これらはSDGs⑧「すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する」や、SDGs⑫の「持続可能な消費生産形態を確保する」にも合致する要素である。
ユネスコの無形文化遺産である和食に欠かせない炊飯米同様、生産性や合理性にとどまらなず、価値観を守り、共有する必要がある。ガストロノミー・ツーリズムにとって世界標準化は水と油である。
(OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)

7月26日、国連世界観光機関の駐日事務所を訪ねた。新たに赴任した副代表と、刷新された新メンバーへのご挨拶が目的である。同行者は松阪歴史文化舎と三重ふるさと新聞だ。コロナ禍以前は2~3カ月に一度ぐらいの割で訪問していたのだが、長引くパンデミックの影響で、インバウンドと共に疎遠となっていた。実に二年ぶりの訪問である。
とはいえ、前日7月25日のニュースによると、三重では新たに1660人の新型コロナ感染が発表され(重症者はゼロなのに、病床使用率は42・6%)、また、奈良においても2134人の感染が発表されている(重症者は10人で、病床使用率は43%)。したがって、行程と参加者は接触者の追跡が容易な必要最小限のものとなった。コロナウイルス感染は、日本においては健康被害よりも社会生活に被害をもたらすからだ。ウイルスが弱毒化しても、厳格な指定感染症法に愚直に縛られたままだからである。
奈良公園では子連れの鹿は目立つものの、観光客の姿はまばらだった。外国人グループもゼロだ。路駐の観光バスもなく商店街も空いているようだった。国連世界観光機関APTECや奈良市観光協会がオフィスを構えるシルキア奈良も火曜日だからか静かである。
国連世界観光機関のオフィスでは、副代表を含む四人の新メンバーと旧知の国際部プロジェクトコーディネーターとお会いした。私は自作の2021年の年次グラフで国際収支の分析を紹介し、国際ツーリズムも貿易であるという国際的コモンセンスについて一時間ほど話した。21世紀の外貨獲得産業は国際ツーリズムだからである。
松阪歴史文化舎は、近代日本のルーツとして、豪商を育んだ松阪の位置付けを話した。三重ふるさと新聞は、高田本山専修寺と復元運動の高まる津城の活用を紹介した。奈良と三重は、紀伊半島歴代文化観光圏として外国人に訴求できるポテンシャルを有しているが、隣接県なのに所属する経済圏が異なる為、メインメディアによる情報疎通が少ないからである。
国連世界観光機関から12月に開催予定である「ガストロノミー・ツーリズム」の国際シンポジウムへのお誘いと、休刊中の「インターナショナル・ツーリズム・ハイライト2021」が、「2022」との合併号としてリリースされるとの情報を得た。ツーリズム・ハイライトは、世界のツーリズム情勢を数字で知る貴重な道しるべである。これにより2018~2019年の我が国の国際観光収入が、中国を抜いて極東エリアで最も高かったことが分かる。
4月から、私は売却譲渡された鳥羽のホテルの再生に挑んでいるが、MICEを目標に据え、ホテルの平面図も携えてきた。先方からは「世界観光倫理憲章および関連文書」「責任ある旅行者になるためのヒント」「ガストロノミーツーリズム発展のためのガイドライン」そして「ディスティネーション・ブランディング・ハンドブックの要旨」を頂戴した。前者二冊は既刊だが、後者二冊はコロナ禍に訳出されたものである。「ガストロノミーツーリズム発展のためのガイドライン」は、政府、自治体、DMO、その他の利害関係者に、地域のガストロノミーツーリズム開発の企画と運営において、考慮すべき事項や取るべき行動について示し、また、「デスティネーションブランディングハンドブックの概要」には、ブランド管理戦略を使用したブランディング・プロセスのステップ・バイ・ステップガイドが記載されている。井の中の蛙に陥らない為にも、世界の事例を知ることは重要である。
皆様ありがとうございました。
ところで、28日から奈良では全国知事会議が始まった。感染が急拡大する中、社会経済活動を維持するため、新型コロナの感染症法上の扱いを季節性のインフルエンザと同じ扱いに見直すことも含め、これまでの対策を転換すべきとの意見が相次いだ。
神奈川県知事は「いつまでも『2類相当』では実態とあわず、社会経済活動が止まってしまう」と、季節性のインフルエンザと同じ「5類」に見直すべきだと訴える。北海道知事は「オミクロン株は99%が軽症であることを踏まえ、議論を進めていくことが重要だ」と指摘。千葉県知事は「感染者の『全数把握』は見直しの必要がある。負担を軽減するため『定点把握』に移行すべきだ」と述べている。当然だ。
(OHMSS《大宇陀・東紀州・松阪圏・サイト・シーイング・サポート代表》)

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