女の落書帖

右折車に轢かれそうになった。信号のある交差点の横断歩道を歩いていた時である。
 車に気づいた私はヒッと言って固まってしまった。機敏に衝突を避けるなんてできない。車は数十センチのところで私の身体に触れずに止まった。びっくりした。
 運転席の女性が拝むようなしぐさをした。私は頷いてそのまま横断歩道を進んだ。交通事故はこんな風に起こるのだと思った。
 右折は危ない。対向車の来ないうちにとアクセルを踏む。つい数週間前のわが身を振り返った。その日は強い雨が降っていた。交差点を車で右折したのは私。車を進めて横断歩道に差し掛かった時ドキッとした。車の右に傘をさした人の背中が見えた。
 もちろん接触はしていない。しかし右折する時にその人の姿が見えていなかった。十秒違えば轢いていたかもしれない。横断歩道に人がいるのに気づけなかったことにショックを受けた。交通事故はそんな風に起こる。
 これからのことを考える。信号のある横断歩道でも車の運転者と視線を合わせてから渡ろう。運転する時はどうしよう。それはもう注意深く運転するしかない。雨の日や夜の運転をできるかぎり避けよう。
 免許を取得して何十年にもなるが、これまで人に怪我をさせたことはない。私も怪我をしたことがない。このまま交通事故と無縁でいたいものだ。
       (舞)

 近所に建売の住宅ができた。新しい人が来るのは嬉しい。新築の家は見ていて楽しい。スタイリッシュ住宅というのだろうか。黒っぽい外壁のおしゃれな外観だ。
 この頃の新築には、黒っぽい外壁が増えているように思う。黒い家は和風にも洋風にも合う。おしゃれに見える。雨の汚れも目立たないだろう。でも夏の暑さは増すのではないだろうか。今の家は断熱効果が高いから大丈夫なのかも。
 窓が小さくて少ない。家の南側には掃き出し窓があるのが普通だったけれど、南側に腰高窓だ。家具を大切にする西洋では、家具が陽で焼けない北向きの部屋が好まれると聞いたことがあるが、日本でもそういう傾向が出てきたのだろうか。窓が少なければ夏の暑さ対策にもなる。温暖化が窓の大きさに影響を及ぼしているのかも。
 それ以上にプライバシーの問題かもしれない。広い庭がある豪邸ならともかく、街中の家なら大きな窓は隣から丸見えになる。我が家も一日中レースのカーテンを閉めている。暗くなったら外から見えないように雨戸を閉める。大きな窓を作らない方が良かったかもしれない。
 壁が多ければ、家具の位置も自由に決められる。絵やタペストリーを飾る場所も取れる。外から見る小さな窓はおしゃれだ。今度家を建てるなら、黒い外壁に小さな窓になるだろうか。     

       (舞)

ベンチに座っていたら、背後からおじさんたちの声が聞こえてきた。「昨夜フキノトウの天ぷら食べたんや。フキノトウを漢字で書けるか。これがなかなか書けやんのや」「そんなん書けるかい」
 私はフキという漢字を思い浮かべた。草冠に路と書くのではなかったか。路端に生えるから蕗かなと思う。ではトウはどんな漢字だったか。草冠に童ではなかったか。花の子供の集まりだから。
 そこでスマホで調べてみたら、蕗の薹のトウは童ではなかった。そんなん書けやんわと私も口に出しそうになった。
 漢字は難しい。読むのは結構得意だが、書くのは苦手。キーボードで文字を出すようになって四十年ぐらいになる。指を動かせば漢字が出てくるからペンで一画一画書くことを忘れてしまった。
 檸檬とか薔薇とか、クイズになりそうな漢字もある。顰蹙とか憂鬱とか、そういう字は書けなくても良いだろう。
 今の若い人は小さい時からキーボードやタッチパネルで文字を出しているのだから、漢字を書くことなど無駄だと感じているのではないだろうか。書き取りなどやりたくなさそうだ。
 でも漢字は意味を含んでいる。山脈、食堂などの語を見ればだいたいの意味が分かる。漢語は短い表現で意味を伝えられる。木へん、金へんなどと書きながら意味を覚えることも大事かと思う。 
       (舞)

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